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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

呪いの言葉

「むらさきのかがみ、って言葉を二十歳まで覚えてたら死ぬんだよ」
そんな噂が小学校の教室を駆け巡っていた頃があった。まだ、二十歳なんてものすごく遠い未来にしか思えなかった頃だ。それから二十歳になって、同窓会があって、キャーキャーはしゃぐ友達に囲まれながら、私は密かにあの呪いの言葉を思い出していた。

漫画「ハチミツとクローバー」には花本先生、真山くん、竹本くん、ローマイヤ先輩・・・と素敵な男子がたくさん出てくるけれど、私が一番好きなのは森田さん。
そんな森田さんの呪いは可愛らしく眠り姫。

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「呪ってやる お前の娘は15の誕生日に糸紡車に指をさされて永遠の眠りにっ」

考えてみれば恐ろしい呪いだな。自分ではなく娘に累計が及ぶんだものな。そんな呪いをかけられつつ、母親はどんな思いで娘を産んだのだろう。
それとも、その呪いは日常の言葉の中にまぎれて、なんでもないことのように日々を過ごしていたんだろうか。

小学校5年生の時、担任の女の先生が言った。
「若い時はほっぺがふっくらしていて、その分ウエストが細いの。年をとると先生みたいにほっぺの肉が落ちる分、ウエストに肉がつくのよ」
おませな女の子たちがヤダーと笑うのをぼんやり見ていたが、あの言葉がずっと忘れられない。高校生の頃、母親に「小学校の頃に先生がね」とその話をしたら「なんてひどいことを言う先生なの!!でも、真実ね!」と真顔で言っていた。最近、鏡に映る自分の顔を見つめながら、あの時の先生の言葉をよく思い出す。あれは真実だけど、呪いじゃないか。

成績は良かった割に素行不良だった中学校時代、先生達は入れ替わり立ち代わりやってきて私に言った。「そんなことじゃ、お前の人生お先真っ暗だぞ」「きちんと高校大学を出ないと生きていけないぞ」
「お先真っ暗、生きていけない=死」という単純な図式を胸に焼き付けて怯えながら進学したが、大学は中退した。大学を辞めた日、恵比寿駅で「なんだよ、大学辞めても死なないじゃないか。死なずに生きていかなければならないから大変なんじゃないか」と驚いて立ち尽くした。

現在死にかけの父親初号機は弟に言っているらしい。「お前、そうやって俺を見捨てて、いつかお前も見捨てられて死ぬんだぞ」
「まあ、そうだろうな、って僕も思ってるけどね」と言いながら弟は酒を飲み、私も「まあ私もそうなるだろうな」と思いながら焼き鳥を食べた。

いつか、青春18切符の旅をして、会社帰りに行けるところまで行こうとして豊橋に着いた。朝の始発までの4時間を駅構内で過ごそうと思っていたら、知らないお兄さんにドライブに行こうと誘われて、バカな私はふらふらと付いていき、案の定ちょっとしたイタズラをされたことがある。本当にちょっとした程度のことだけど。
夜が明け始めて「あの、もう行きます」と告げたら「じゃあもう二度と会えないね」と言われた。その場しのぎで「また来ます」と答えたら「また来ますっていう旅人は二度と来ないってこと、僕は知ってるんだよ」と、ふっと笑った。その言葉は今でも胸に残っている。そしてやっぱりその後なんとなく、東海道線を敬遠し、豊橋には足が向かない。

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呪いの言葉は忘れられない言葉。
日常の中で何気なく聞いた、何気なく口にした、何気ない言葉がいつまでも胸に焼き付いて呪いになる。
そんなことをふと思った曇りの土曜日。