90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

念のため

前の会社の同僚に二人の娘を持つお母さんがいてみんなに「母さん」と呼ばれていた。ある日の昼休み、母さんは盛大にため息をつきながら言った。「うちのマミカのテストが返ってきたんだけどさあ!」
マミカというのは母さん家の末っ子で確か小学校4年生くらいだったはず。
「世界三大美人を答えなさい、っていう問題だったのよ。マミカが何て書いたと思う?」

待って、待って。三大美人って誰だっけ、クレオパトラ、楊貴妃小野小町、だよね?と、まずはみんなで確認する。
「そう。でもマミカの答えがさ、クレオパトラ。」はい。「小野妹子」え!!!遣隋使!?ま、マミカ、妹子は男よ!!「そして、最後が崎陽軒」・・・それはシウマイ・・・。た、確かに似てるけど・・・。惜しいけど、マミカ!
「そうなの、似てるのよ!あの子いつもそうやってフィーリングで適当に物事を判断するからこういう間違いをおかすのよ!」

母さんは盛大に嘆いていたが、そんなマミカも今や難関私立大学に通う女子大生とのことだ。あのマミカがねえ・・・と、友人たちと時の流れを実感した。

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大学時代の友人ヤマダは塾講師をしており、小学3年生から中学3年生までの子供にメインは社会科、サブで国語と英語を教えているのだそうだ。そのヤマダにいつか、マミカの三大美人の話をした。二人でひとしきり笑った後、ヤマダはこう言った。

「よくあるんだよな、そういう間違い。まあよ、別に三大美人なんて知ってたって何の役にも立たねえんだよ。だから俺は生徒に「先生、勉強って何のためにするの」って聞かれたらこう答えている。「念のためだ」とな!
だってよ、三大美人を知ってるからこそ、今こうやって酒飲みながらそんな話で笑えるんだぜ?飲み会の時に「ゲルマン人の大移動」とか「カノッサの屈辱」とかネタにして笑うのも知ってるからだろ?落語だって、基本的な知識がないと笑えないしよ。話のネタのためだけにも、知っておいて損はねえんだよ」

おお!念のためか。そうか。なんか、ヤマダって結構いい先生なのかも。と、妙に感動した。

昨夜はヤマダと、これも大学時代の友人のアケミと一緒に新宿で会ってご飯を食べた。ヤマダはこれから受験に挑む生徒達に合格してほしいとの願掛けで断酒しているとのことで、私とアケミはまたしても「ヤマダ、いい先生やってるじゃん」と彼を見直した。

あれこれの話も落ち着いた頃、ヤマダは突然言い出す。「お前さあ、フランス文学って読む?ほら、あれ、あの、カザンとか」
・・・・・・・・・・・・・・・サ、サガン?・・・・・・・・・・・・・
「あ、そう、それ!!」

・・・ヤ、ヤマダ先生!教育に携わる者としてそれはどうですか。ましてや生徒たちに国語を教えんとする者として。そりゃあ、中学高校受験にサガンは出ないだろうけど、念のために知っていてもいいじゃないの!!そんなんじゃ願掛けしても生徒落ちるよ?

・・・と、3人でわあわあ大笑いできたのも、こうして話のネタにできるのも、我々みんな、念のために知識を身に着けてきたおかげでもあるけど。