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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

コロッケと嵐

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台風が近づくと、インターネット上がコロッケコロッケと騒ぎ出す。理由は下記の通り。

意外と古い 『今日は台風だからコロッケな!』 の由来とは - NAVER まとめ

子どもの頃、親の知人の家で台風を迎えた。「この後、停電するから」とおばさんは張り切っておにぎりをたくさん作ってくれ、私達子どもはかなりうきうきとはしゃいだ気持ちで押入れの中に入り込んで、懐中電灯の灯りでおにぎりを食べた。
今では東京に来る台風はずいぶん少なくなって、来てもあっさり通りすぎていくばかりなので、昔程うきうきドキドキもせず、おにぎりを用意することもない。
その代わりに「コロッケ!」と思ったりする。

初めてネットが「台風が来るからコロッケな」と盛り上がる様子を見た時、あの、押入れの中で食べたおにぎりを思い出して気持ちがそわそわした。コロッケというのはまた、上手いチョイスだな、とも思った。
あまりに日常過ぎてどこにでも毎日あって、どこかで小馬鹿にされていて、あえて食べるとかえって非日常を感じるような食べ物。それがコロッケであるような気がする。
高速のSAに寄ると何故だか普段は食べないようなコロッケそばを食べたくなるし、SAでコロッケそばを食べれば、ああ、旅が始まるなという気持ちになる。

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実家の本棚に、母の買った「中島みゆき全歌集」という朝日文庫があって、高校生の頃によく引っ張りだしてきて読んでいた。2つ年上の先輩が中島みゆきが好きで、それがものすごく大人に見えたので自分も背伸びしてみたのだ。その中に「蕎麦屋」という歌詞があった。

世界中が誰もかも偉い奴に思えてきて
まるで自分一人だけが要らないような気がする時
突然お前から電話がくる 突然お前から電話がくる
あのぅ 蕎麦でも食わないかぁってね
(中略)
風は暖簾をばたばた靡かせてラジオは知ったかぶりの大相撲中継

この曲を聴いたことはないけれど、情景がはっきりと胸に浮かんで、こんなに生々しい歌があるのか、と思った。
風が暖簾をばたばた靡かせる不穏で不安な感じは、嵐が来る前のような印象を私に与え、そしてどういうわけだか、この詞に出てくる男の人はコロッケ蕎麦を食べているんだろうと想像していた。ちなみに主人公の女の人(中島みゆき)はこの曲の中でたぬきうどんを食べている。


雨はやんだものの、風がごうごうと唸っていた連休最後の日、ふと「コロッケ買ってきてお昼はコロッケサンドにしよう」と思った後で、「あ、台風だった」と気がついて一人で笑ってしまった。いつの間にか、台風=コロッケはこんなに無邪気に心に根付いてしまったのか。
スーパーに行ったら折しも「今日はコロッケの日」との事で特売をしていた。それで2つ買ってきて、一つはお昼にコロッケサンド、もう一つは夜にコロッケ蕎麦にした。

麺つゆにコロッケを溶かしながら、思い立ってYoutubeで初めて中島みゆきの「蕎麦屋」を聴いてみた。詞を読むと、嵐とコロッケ蕎麦のイメージなのに、曲を聴くとなんだかもっと穏やかで、続いていく毎日の中の、ある落ち込んだ日、というイメージだった。
それはまた、嵐でない、特別でない日のコロッケの一面のようでもある。

中島みゆき全歌集 (朝日文庫)

中島みゆき全歌集 (朝日文庫)