キラキラ光って
大きなクリスマスツリーが立った
谷川俊太郎
キラキラ光っていて
この世じゃないみたいにきれいだけど
これも人間がつくったものだよ
夜のあいだに大いそぎで
ビニールテープを巻いたりして
時々ビリっと感電したりして
つくった人は寒くて寒くて
きれいかどうかも分からなかったよ
キラキラ光っていて
永久に消えないみたいにまぶしいけど
いつかはこわしてしまうんだよ
すぐに新しい年がやってきて
これもあっという間に古くなる
きれいなもののいのちは短いのさ
ほんのちょっとにぎやかな気分になって
あとは夢のように忘れてしまうんだ
キラキラ光っているものは
どうしてもどこかに影をつくる
影しか見えない人だっているんだよ
影のほうがいいとすねてる人だっているんだ
そんな人にかぎってほんとうは
もっともっとキラキラと明るいものに
それが何かはよく分からないくせに
もう泣きたくなるほどこがれているのさ
この詩を読むと、いつも真っ先に思い出すのは銀座和光のショーウィンドウ。
夜のあいだに大いそぎで、時々ビリっと感電したりしながら作ったんだろうか、と考えてしまう。
あの震災以降、自粛の傾向にはあるけれど、我が家の近辺は12月だけ観光名所となるほどに、周囲の家が競うように家を飾り立てて光らせる。
12月が近づくと、自治会からの注意書きも回ってくる。
「イルミネーションは12月1日解禁。周辺住宅に考慮し21時には消灯しましょう」
すごい家はわざわざ屋根に無線アンテナを設置し、そのアンテナから電飾を下げて家全体をクリスマスツリー型にしたりする。12月の電気代は10万を超えるそうだ。
ある年の12月1日は冷たい雨の降る日曜日だった。夕方、寒さに震えながら帰ってきた私は、自分のアパートのある丘を遠くから眺めて「山火事!!」と驚いた。それくらい光っていた。そうか、今日からイルミネーション解禁なのか。
こんな冷たい雨の日に、お父さんたちは屋根にはしごをかけて、寒さに震えながら作業をしたのか。
ここ二日ほどひどく冷え込んで、冷たい雨が降り続いている。そんな中、わざわざこのタイミングを選んで、我が家の隣の教会がキラキラと光り始めた。
つくった人は寒くて寒くてきれいかどうかもわからなかっただろうか。時々ビリっと感電したりもしただろうか。
「バカバカしい、どうしてわざわざこのタイミングでそんなことを」と言うのは簡単だ。
けれどそこに、日々のささやかな楽しさや幸福への真摯で地道な努力の姿や敬虔さを見るような気がして、泣きたくなるほどこがれたりするのだ。
- 作者: 谷川俊太郎
- 出版社/メーカー: サンリオ
- 発売日: 1989/10
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (3件) を見る