読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

今は死ねない

泡沫

その昔、横浜港には「あかいくつ号」と「かもめ号」という遊覧船が走っていた。たとえ叔母に「今からこの船でまめを上海に売りとばしに行く」と脅されようとも、あれに乗れるのが嬉しかった。
白いかもめ号よりも赤色のあかいくつ号に乗れる方がより一層嬉しい。子供にとって赤は正義だ。
嬉しさのあまり、手すりから身を乗り出す私に、祖母はピシャリと言った。
「落ちても拾わないから」
前述の叔母もヒヒヒと笑って続けた。「そうだよ~。こんな汚い海に落ちたらゴミまみれになるもん。そんな子は拾えないよ~」
ゴミまみれで海に浮かぶ己の姿を想像し、子供心に「そんな死に方はいやだ」と頭をひっこめた。

f:id:mame90:20140106063303j:plain:w400
この氷川丸のすぐ隣あたりから出航していたような気がする。

黄昏時の視界の悪い中で車の運転をする母が言う。
「ああ、見えない。怖いわ~。でも今は死ねないの。だって、今日、パンツがボロいんだもん。」
確かにそういう時に事故に遭うのはやめてほしい。
「万が一のことがあっても、ボロいパンツだったら他人のふりするからね。うちの母ではありませんって言って帰るから!」
いつかの祖母のように豪然と告げると、母も負けじと言い返す。
「アンタだって、気を付けなさいよ。新しいパンツだからって死んでいいわけじゃないけど、娘がボロいパンツで死ぬなんて、あたし、嫌だからね!」
娘思いなのか親のエゴイズムなのか判断しかねるところだ。
いずれにせよ、ゴミまみれでも死ねないし、ボロいパンツでも死ねない。

f:id:mame90:20140105161457j:plain:w300
とらや赤坂本店もお正月の装い。

今日は新年初出社なので、気合いを入れて新しい下着をおろした。結構可愛め。
でも死ぬわけにはいかない。今は死ねない。
なぜなら冬場の私は腹巻きも標準装備なんだもの!