90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

見知らぬ街

今ではむしろ不安を求めにどこかにふらっと出かけたりするけれど、昔は知らない所へ行くのがとても恐くて嫌だった。
修学旅行の前の日なんて、「もう生きてこの部屋に戻ることはないのではないか」と悲壮な顔で部屋の片付けをしたくらいだった。
それ程不安なので、せめてもの心の平安を求めて、旅先ではどこにでもあるチェーン店を探した。ファミレスやファーストフードやコンビニ。いつも自分の身近にあるお店。
中学の修学旅行で京都・奈良へ行った時はマクドナルドへ。高校の修学旅行で行った大阪ではドトールとタワーレコード。友達と倉敷や新潟や徳島へ出かけた時はヨーカドーやジャスコ。宿泊なら東急インとかサンルートとか、どこにでもあるようなビジネスホテル。

今では「え、旅先でまでファミレスなんて有り得ないでしょ」と思う。どこに行っても大して代わり映えしないな、とつまらなく思ったりもする。それは、自分の生活を自分で支えて、根を下ろしているからだと思う。けれど、まだ自分の生活に根をおろせなかった時期、根を下ろしたてで吹けば飛ぶようだった頃は、どこかで自分の日常とつながっていないと、日常へ戻る扉が無くなりそうで嫌だった。

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WHOLESOME(ロッテリア系ベーカリー) クリームパン 160円
パン:外まで柔らかい
クリーム:卵が強い。ふんわりした感じ
☆☆☆

昨日は弟の結婚式だったのだが、それが若い人らしくロマンティックに「二人の出会いの地」で開催された。お二人には思い出深い場所だろうが、私にはなんの縁もない場所だ。
なんだかすごく気が重くて、あーめんどくさい、あーめんどくさい、と思いながら現地に向かった。早めについて、開いている店がそれしかなかったので、駅前のヨーカドーにふらりと入った途端、家の近所のヨーカドーと同じ音楽が流れていて、ああ!と思った。
ああ、私、ここに来るまで不安だったんだな。慣れない格好で、見知らぬ土地で、たくさんの知らない人に会わなきゃいけない事がものすごく不安だったんだな。

日常の延長線、ヨーカドーの音楽に心底ほっとして、少し元気が出た。
それで「どうせ若い人のレストランウェディングなんて進行がグダグダで、お料理まで時間があるんだから、少しお腹に入れていこう」とイートインができるベーカリーでクリームパンを食べた。
ほっとしたせいもあるんだと思う。普通のクリームパンだけど、なんだかふわふわと口当たりよく、陽に干したお布団みたいな安心感があった。わらじみたいな不恰好な形も、今の私には好感度が高かった。

ところで、この、私を安心させてくれたヨーカドーの音楽は、ビートルズの「HELP!」で、レジ混雑時の応援要請曲なのだそうだ。
・・・そうだったの?いつだって四六時中この曲しかかかってないじゃない・・・。