夜空ノムコウ
あれから僕たちは。
中学生の頃、絶賛中二病だった私は、同じ団地の友人たちと示し合わせて夜中の2時に家を抜け出した。と言っても田舎町のことで、どこに行く宛もなく、近くの川にかかる橋の上のベンチに座って、缶のお汁粉を飲みながら夜明けまで話し込んだり、終電の終わった線路の上を歩いて「スタンド・バイ・ミー」ごっこをしてみただけ。犬の散歩中のおじさんに「帰りなさい」と注意された日々は、ある日親に見つかって張り倒されて終了。
あの頃は食パン1斤くらい平気で食べられるほどに食欲は旺盛で、「アンタはお腹がすくとすぐ不機嫌になるのよ!ご飯食べ終わると途端に上機嫌なんだから!」と母に怒られた。
高校生の頃、学校の近くに「まぼろし軒」というラーメン屋があった。小汚い店構えで、いつ見ても閉まっているので「さすが幻だな」「まぼろしっていうか潰れてんじゃね?」とみんなで噂していたが、どうやら夜間のみの営業だったらしい。朝になると消える幻ってヤツだったのね。
大学生の夏は友達と公園で花火をしようとして、警察に怒られた。
20代の頃、「行き先のない旅行」を友人たちと始めて、夜通し車の中で下らない話をしながらあちこちへ行った。
あれから僕たちは。
伊豆に星を見に行こう。それならついでに河津桜も見に行こう。
あそこでは美味しい桜ようかんが売られている。以前両親が買ってきて、とても美味しいので通販ページを調べて注文したものの、あれからまる2年何の音沙汰もない桜ようかん。きっとホームページ作ったはいいけど、チェックはしていないのね。桜の時期にしか作らない「幻のようかん」てサイトに書いてあったっけ。
学生時代とまるで変わらず、友達は寝坊して遅れてやってくる。雪で山側の道を通れない車たちが海側に下りてきたので渋滞がひどい。空には雲がかかっていて、今夜は星が見えないかもしれない。やっと河津に着いた頃には既に夕方でお祭りのお店も閉まり始めている。
そしてだんだん私は無口になり、不機嫌になって、桜を横目にスタスタと歩く。
けれど探し続けた幻のようかんが手に入った途端、ご飯を食べ終わったかのように上機嫌で「うわー良かったー、ありがとう。すごく嬉しいー」とはしゃぐ。
ちょうどその頃、桜のライトアップが始まって、桜の向こうにシリウスが、オリオン座が、木星がきれいに見えるから、更に浮かれる。
下田の岬へ向かう曲がりくねった道を「昔もここ通ったね」「あの時ってさあ」と思い出話をしながら走るけれど、あのころの未来に僕らは立っているだろうか。
「幻のようかん」を探したり、ちょっとしたことですぐ不機嫌になったり都合よく上機嫌になって。
夜中までふらふらと出歩いて、いつまでも下らないお喋りをして。
コーヒーを飲んで、「朝になると消えてしまう幻」のような星を見上げて。
そして巡回の消防車に「気をつけて下さいね」と注意されている今。
- アーティスト: スガ シカオ
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