90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

夏に読みたい100冊

はてなさんの今週のお題は「夏に読みたい1冊」との事ですが
(もう月曜なので、間に合ってない感じがものすごくするけれど)
夏になると一番読みたいのは、新潮文庫や角川文庫なんかから出されている「夏に読みたい100冊」というような小冊子だ。
毎年毎年、夏の間中、あの冊子を何度も何度も読み返したおかげで、読んでもないのに、読んだようなつもりになっている本が山のようにある。こないだ奈良に行った時だって「君、そういうの好きでしょ?志賀直哉旧居あるけど行く?」と聞かれて、知ったかぶりで「あらー、暗夜行路ね」とか言ったけど、読んでない。
熱海で、貫一に蹴られるお宮の像を見た時だって、「ダイヤモンドに目が眩み!」「今月今夜のこの月夜、僕の涙で曇らせてみせる!」と熱演してみたけど、実は読んでいない。

おまけに、短編がセットになったタイトルをそのまま作品名として覚えていて、「蜘蛛の糸・トロッコ」「鼻・芋粥」「舞姫うたかたの記」「草枕・二百十日」「一握の砂・悲しき玩具」これらが切っても切り離せない。まるで「褐色の恋人スジャータ」のように必ずセットで思い浮かぶ。
こう考えるとあの冊子も功罪半ばするかのように思われるが、とにもかくにも、高校生の夏、クラスであれが配られると「夏休みだ!」とときめいた。そして夏の間中、この冊子ばっかり繰り返し読んでいたものだ。本編を読めよ。

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それで、「夏に読みたい1冊」というお題を見た途端にあの冊子を思い出して本屋さんにもらいに行ってきた。
それがまあ、なんということでしょう。最近の本ばっかり載っていて「ロウソクの科学」や「ジーキル博士とハイド博士」「地下室の手記」なんてもうあとかたもないではないですか。しかも、「泣ける本」「ヤバい本」「恋する本」などというカテゴリまでついて、おお、もう・・・。
一番マトモなのは角川文庫だった。しかし表紙が激烈にダサい。集英社文庫はAKBさんだった。そういや昔「明星」なんかでアイドルは必ず「好きな本は星の王子さまです☆」とか言っていたものだったな。新潮文庫からは没落貴族の匂いがした。「斜陽」の直治みたいな。

あの冊子の代わり果てた姿に落胆したが、気をとりなおして夏っぽい本をいくつかあげるなら。

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

王道。何度読んでもいい。夏っていうのはどうしてこんなに生きることと死ぬことについて考えさせるんだろう。


H2 全巻セット (小学館文庫)

H2 全巻セット (小学館文庫)

冬に読んだら、蝉の声が聞こえるほどに夏を感じる。夏に読んだら、自分の中で甲子園が始まる。
あだち充のセリフや間のセンスは本当にすごい。世代的なこともあって個人的に手塚治虫よりすごいと思ってる。


ドキュメント横浜vs.PL学園 (朝日文庫)

ドキュメント横浜vs.PL学園 (朝日文庫)

夏の行事の中で、一番大切なものが高校野球になったのはあの夏からだった。
夏が近づくとこの本やH2を読み返して、気持ちを夏の高校野球に向けていく。春も秋も高校野球を見る。でも、夏だけはやっぱりまるで雰囲気が違う。熱さが違う。賭ける思いが違う。常に「最後」という言葉がつきまとう。
だから、7月に入ったらもう、競輪選手が重いペダルをゆっくりと漕いでスピードに乗って行くように自分の気持ちをのせていかないと、夏の暑さにも高校野球の熱気にもついていけない。

さて、程よく気持ちがのっている今日は有給をとって保土ヶ谷球場に行って参ります。鞄の本など放り出して。